新宿コラム
新宿歴史コラム vol.2 近代都市新宿の萌芽
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新宿歴史コラムvol.1はこちらをご覧ください。
弐. 【近代都市新宿の萌芽】
■新宿に汽車が走る
明治維新の始まりはいつなのかという議論はあるようだが、1853年のペリー来航を始まりとするのが一般的らしい。そこから日本は幕末の動乱が始まり、1867年の大政奉還で江戸幕府は終わりを告げる。宿場町を形成させた宿場制度は明治になっても継承されたが、1872年(明治5)に廃止となった。宿場制度が廃止されても、そもそも歓楽街として経営を成り立たせていた内藤新宿の賑わいは変わることがなく、都市近郊の歓楽街という位置づけもそのままであった。
新宿が大きく変わるきっかけとなったのは、1885年(明治18)に日本鉄道品川線が開通したことである。この線は東海道線と東北線を繋げるために品川駅と赤羽駅の間に敷設された線で、現在の山手線の原型で環状線の西側半分にあたる。東側(上野~新橋間)の開通は大幅に遅れたが、これはすでに市街化されているため敷設が難航したからである。逆に、武蔵野台地の上に位置する西側は、起伏が激しく技術的には難しいものの、当時は近郊農村地帯で居住人口も少なかったため、鉄道建設を進めやすかったという事情があった。特に当時の鉄道は蒸気機関車だったため、煙や騒音がひどく住民からは敬遠されていた。最後に上野~神田間がつながって山手線が現在のような環状線となるのは40年後のことである。
■「内藤新宿」から「新宿」へ
鉄道敷設とともにできた駅は青梅街道を北に接するように開設され、「内藤新宿駅」と名付けられた。現在のルミネエストのあたりである。内藤新宿駅とはいえ新宿追分から300mも離れた場所であり、荒涼とした風景の中に改札口が一つしかない小さな駅舎がぽつんと建っていたそうである。開業当時は2両編成の列車が一日3往復していたに過ぎず、乗降客も50人程度であったという。それで事業が成り立つのかとも思えるが、当時の鉄道は旅客よりも貨物が中心で、輸出向け物資を横浜港へ運搬することが主業務だった。
さらに1889年(明治22)には新宿から八王子まで後に中央線となる甲武鉄道が開通した。その2年前に日本鉄道は何故か「内藤新宿駅」を「新宿駅」に改称している。そして甲武鉄道もそれにならって新駅を「新宿駅」とした。これが名称としての「新宿」の始まりである。開設当時は利用客の少ない寂しい駅だったが、徐々に乗降客や貨物が増え、駅前にも少しずつ店や茶屋ができていった。特に多かったのが薪と炭を扱う薪炭屋(しんたんや)で、駅前が集荷所となって各地から貨車で送られてきた薪炭がここで降ろされた。1906年(明治39)に「鉄道国有法」が施行され、甲武鉄道が国有鉄道中央線に、日本鉄道が国有鉄道山手線となった。駅舎も新たに建て直され、甲州街道沿いの現在の東南口付近に移転した。
まだバスも地下鉄もない時代の都市部の足は、明治36年頃までは鉄道馬車で、その後電化が進み路面電車が発達していった。当初は民間会社が運営していたが1911年(明治44)に東京市電として東京市により公営事業化された。新宿でも1903年(明治36)に路面電車が半蔵門との間に施設されたが終着駅は追分で、新宿駅まで線路は敷設されていない。また、1916年(大正5)新宿~府中間に京王電気軌道が開通した。開設された起点駅は新宿追分駅で、現在「京王新宿追分ビル」(新宿3丁目)が建っている場所である。利用客が増えつつあるとはいえ、この頃の新宿の中心地は依然として追分であった。
▽写真:2代目新宿駅(新宿歴史博物館所蔵)
■水の近代化と淀橋浄水場
江戸時代初期に開削された玉川上水は江戸の飲料水を供給していたが、明治へと時代が変わっても、飲料水を玉川上水に依存する事は変わらなかった。
近代化を唱える明治政府にとって水道の整備は喫緊の課題であったが、特に1882年(明治15)と1886年(明治19)の2度にわたるコレラの大流行は多くの死者を出し、安全な水道網整備は急務となった。江戸時代の幕府は上水の管理を厳しく行っていたが、明治になってからの混乱期に管理が行き届かなくなったため水質汚染が進んだと言われている。その結果計画されたのが玉川上水からの水をきれいにする浄水施設で、1989年(明治31)に現在の西新宿に淀橋浄水場が完成。翌1890年(明治32)には東京市内全域への配水が始まった。それまで使用していた木や石の樋から鉄管に替え、浄化された飲料水を配水する近代的な水道網ができあがったのである。結果的に玉川上水の終着点は四谷大木戸の水番所から淀橋浄水場へと移動し、この間の玉川上水は廃路となる。この時完成した淀橋浄水場は70年後の副都心計画によって1965年(昭和40)に閉鎖されるまで、東京に安全な飲料水を提供し続けた。
▽写真:淀橋浄水場入口建物/1924年頃(新宿歴史博物館所蔵)
■膨張を続ける東京
明治中期から大正年間の新宿の発展はゆっくりに見えるが、日本や東京全体の動きを俯瞰すると激しく胎動が起きている。工業化による産業社会の進展によって、大規模工場が建設され、東京中心部にはビジネス街が形成されていった。1894年(明治27)と1994年(明治32)の日清・日露の両戦争は工業化への起爆剤となり、さらに1914年(大正3)に起きた第一次世界大戦(~1918)は大戦景気をもたらし日本を工業立国へと転換させていく。急激な経済成長は自ずと人口急増と過密化を招き、市街地交通を担う路面電車は乗り切れない程のラッシュであったという。すでに東京市街の膨張は臨界点に近づいていた。急速な発展を遂げた東京であったが、1923年(大正12)に関東大震災が襲う。M7.9と推定される大地震は10万人以上の死者を出す未曾有の大惨事をもたらし、東京や横浜の都市機能を破壊した。そして、この大災害は新宿を劇的に変貌させる転換点となった。
今回の新宿のはなしコラムは、以上です。
いかがでしたでしょうか。
少しづつ変遷を紐解く中で、現在の新宿の名前の由来などもお気づき頂けたのではないでしょうか。
次回は、「劇的に変貌した新宿」へと話を進めていきます。
ご期待ください。
<参考文献>
・「新宿区成立70周年記念誌:新宿彩(いろどり)物語」 新宿区/2017年
・「新宿学」 戸沼幸一編著/紀伊國屋書店/2013年
・「新宿の迷宮を歩く」 橋口敏男/平凡社/2019年
<参考サイト>
・新宿区「新宿区史年表」
http://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/70kinenshi/
・新宿区立歴史博物館
https://www.regasu-shinjuku.or.jp/rekihaku/
・東京都水道局「玉川上水」「東京水道新世紀構想」
https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/kouhou/pr/tamagawa/rekishi.html
・環境省「国民公園>新宿御苑」
https://www.env.go.jp/garden/shinjukugyoen/1_intro/history.html
・一般財団法人国民公園協会「新宿御苑」
・LIFULL HOME’S PRESS
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_00621/
・TokyoRent.jp「TokyoRentコラム」
https://tokyorent.jp/column/46/
・nippon.com「変貌し続ける大都市、TOKYO」
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