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新宿歴史コラム vol.5 新宿の発展をもたらした鉄道網の発達

  • #私鉄各社の開業
  • #山手線の変遷
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  • #新宿
WRITER: 深井 正宏

 

新宿歴史コラムvol.4はこちらをご覧ください。

 

伍. 【新宿の発展をもたらした鉄道網の発達

 

■急速に拡がる鉄道網

 関東大震災の復興が起爆剤となって東京は膨張を加速させたが、それを可能にしたのは交通網の発達である。震災の復興計画で幹線道路の建設や旧来の道の幅員拡張が進められたが、一方で震災以前より急速な発展を見せていたのが鉄道網である。時代を明治に遡って東京の主要鉄道の発展経緯を概観してみたい。

 

【東海道線】

 日本で初めての鉄道は新橋~横浜間(総距離29㎞)で、1872年(明治5)の開業である。

開業時の“新橋停車場”は現在の新橋駅ではなく、場所は汐留で現在そこには復元された「旧新橋停車場跡」が建っている。新橋~神戸間がつながって東海道線が全線開通したのは、“新橋停車場”開業から17年後の1889年(明治22)のことである。

 

▽写真:明治期の新橋停車場(国立国会図書館蔵)

 

【東北線・高崎線】

 1883年(明治16)には現在の高崎線にあたる上野~熊谷間が開業した。この線は当初から東北線の敷設を前提として計画されたもので、大宮駅で北へ分岐されて東北線となる。東北線は1891年(明治24年)に青森まで敷設され全線開通した。開業からわずか8年後の事で、東海道線よりもはるかに早いスピードで敷設されている。これ以降、上野駅は東北日本方面の基点駅となった。

【山手線】

 上野~熊谷間が開業した2年後の1885年(明治18)に、途中駅の赤羽駅と東海道線品川駅を結ぶ“日本鉄道品川線”が開業した。東北や北関東で産出される物資を横浜方面に輸送することを主目的に敷設された路線で、途中駅として板橋駅、目白駅、内藤新宿駅(後の新宿駅)、渋谷駅、目黒駅が開設された。新宿駅はこの時に誕生したものである。

 18年後の1903年(明治36)に品川線池袋駅と東北線田端駅を結ぶ新線“豊島線”が開通し、上野~池袋~新宿~渋谷~品川~烏森(からすもり)間を往復する「Cの字」運行が開始され、この時に現在の新橋駅となる烏森駅が新設された。6年後にこのルートは正式に山手線と呼ばれるようになった。

【中央線】

 1889年(明治22)に新宿~立川間を結ぶ甲武鉄道が開業し、新宿に2つ目の駅が開設された。甲武鉄道は東西に延伸を続け同年に八王子まで、1895年(明治28)に飯田町(現飯田橋)まで延伸した。これが現在の中央線である。

【総武線】

 東京の東側を見ると、1904年(明治37年)に、既に本所(現在の錦糸町)~銚子間を運行させていた総武鉄道が両国橋駅(現在の両国駅)まで延伸され、ここが房総方面へ向かう基点駅となった。

 

 

■鉄道が国有化へ

 これで、都心から東西南北へ延びる主要幹線がそろったことになるが、東海道線だけが官営で、東北線が日本鉄道、中央線が甲武鉄道、総武線が総武鉄道と3線とも意外にも私営鉄道である。日本鉄道が事業的な成功を収めると、政府の後押しもあって私設鉄道ブームが訪れ、全国に50社近い鉄道会社が発足し全国に鉄道網ができることとなった(これらの私営鉄道は後に誕生する東急や小田急などの郊外私鉄とは異なる)。これらの私営鉄道は景気の良い時には順調に発展したが、景気が悪化すると営業不振に陥る会社が現れる。輸送力増強と安定化のため鉄道は国が運営すべしという強い主張もあり、1906年(明治39)に鉄道国有法が施行されると全国の主要幹線は国有となった。また地下鉄のない当時の市内移動の主要手段となっていた路面電車も、それまでの民間経営から、1911年(明治44)に東京市が買収して東京市電となった。現在の都営交通の前身である。路面電車の役割は地下鉄やバスに取って代わられ現在ではほとんどが廃線となったが、都電荒川線(東京さくらトラム)のみが今も運行されている。

 

 

■東京駅の開業と環状山手線の完成

 国有化後も鉄道網の発展は続いた。国有化された甲武鉄道は中央線と改称して1912年(明治45)に飯田町駅から万世橋駅まで延伸し、ここを基点駅とした。1914年(大正3)に東京駅が開業すると、東海道線の基点駅は新橋駅から東京駅へと移され、鉄道発祥の地である新橋停車場は貨物専用駅となって駅名も汐留駅と改称された(後に廃止される)。同時に烏森駅が新橋駅と改称し現在に至っている。この時点での主要幹線の基点駅は東海道線が東京駅、東北線が上野駅、中央線が万世橋駅、総武線が両国橋駅で、この4線は都心部で直接つながっておらず、中心部の神田周辺だけが鉄道空白地帯となって残された。

 

▽写真:開業当時の東京停車場(国立国会図書館蔵)

 

 1919年(大正8)に神田駅が開業すると、いよいよ中央線が東京駅とつながった。すると上野~神田間だけがつながっていない山手線は、神田駅で中央線とつながり、中野~新宿~四谷~神田~東京~品川~新宿~池袋~田端~上野という変則的なルートの運行を開始する。「“の”の字運転」と呼ばれたこのルートでは、一つの編成が2度新宿駅を経由する事となり、また東京駅と新宿駅の距離が縮まったことで、新宿駅の利便性が飛躍的に高まることとなった。関東大震災から2年後の1925年(大正14)に、最後まで残された上野~神田間が開通したことで現在の山手線の形が完成し環状運転が開始された。

 

▽図:山手線の変遷(1914~1919年)

 

 

■私鉄各社の開業と郊外地の発展

 明治末期から昭和初期にかけては鉄道網が急速に発展した時代であったが、発展したのは官営鉄道だけではなく、この頃に相次いで郊外私鉄が開業した。主だった路線として、1912年(大正元)京成電気軌道(現京成電鉄)、1913年(大正2)京王電気軌道(現京王電鉄)、武蔵野鉄道(現西武鉄道池袋線)、1923年(大正12)目黒蒲田電鉄(現東急目黒線・多摩川線)、1927年(昭和2)小田原急行鉄道(現小田急電鉄)、西武鉄道(現西武鉄道新宿線)などが開業している。

 

◇開業当時の小田急新宿駅ホーム(小田急電鉄提供)

 

◇小田急線開業直後の多摩川橋梁と電車モハ1形(小田急電鉄提供)

 

 当時の政府や東京市は中心部の鉄道を官営が担うという方針を取っていたため、新たに開業した私鉄は中心部に入れず、山手線の駅と接続させて郊外に線路を敷設した。各社とも利用者を確保するために沿線開発に注力せざるを得なかったが、このことが郊外の発展を促すことになった。各社とも宅地開発や学校誘致、遊園地や観光地の開発などを積極的に進め、合わせて自社線のPRに力を注いだ。

 幹線鉄道の東京駅への直結や山手線の環状化、さらにその山手線を基点とした私鉄による郊外路線の発展は人々の移動を容易にし、密集していた住宅を東京中心部から郊外地へ拡散させることを可能にした。15区以外の周縁部の人口増加率は中心部を上回っており、東京の市域範囲を急速に拡大させていった。そして1932年(昭和7)、それまで市域外だった5郡が編入され東京市はそれまでの15区から35区へ拡大した。大東京市の誕生である。江戸の城郭範囲がそのまま形づくっていた15区に対し、35区は江戸城外の周縁部まで範囲を拡げた形となっており、これが現在の23区とほぼ一致する。

 

■新宿駅が日本一へ

 鉄道の発展は人の移動を円滑化させ、移動人口の増加はそれまで周縁部であった山手線の駅をターミナル化させた。特に新宿駅は山手線と中央線が交差する駅であるとともに、京王電気軌道や小田急電気鉄道の接続駅でもある。(当時の西武鉄道は高田馬場が山手線との接続駅で、新宿駅までは軌道線で結ばれていた)さらに東京市内にめぐらされた東京市電も終着駅が追分から新宿に移動し、新宿駅は東京西部の一大結節点となっていった。東京市が35区に拡大される前年の1931年(昭和6年)に、まだ東京市外であったにもかかわらず新宿駅は東京駅を抜いて乗降客数で日本一の駅になった。

 

 

今回の新宿のはなしコラムは、以上です。

いかがでしたでしょうか。

都市の発展に密接に関わっている、新宿を含む東京の鉄道の歴史、発展の仕方を紐解くことで、どのように発展してきたのかを知ることが出来ると思います。

次回は、いよいよ「新宿」へと話を進めていきます。

ご期待ください。

 

 

<参考文献>

「新宿区史」(区成立50周年記念)/新宿区/1998年

・「新宿学」 戸沼幸一編著/紀伊國屋書店/2013年

・「新宿・街づくり物語」/勝田三良監修・河村茂著/鹿島出版会/1999年

・「東京のれきし 道路・鉄道、まちづくり編」/双葉社/2014年

・「山手線 駅と町の歴史探訪」/小林祐一著/交通新聞社/2016年

・「特急電車と沿線風景-小田急・京王・西武のあゆみと地域の変遷-」/新宿歴史博物館編・発行/2001年

・「ステイション新宿」/新宿歴史博物館編・発行/1993年

 

<参考サイト>

・新宿区「新宿区史年表」

http://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/70kinenshi/

・新宿区立歴史博物館

https://www.regasu-shinjuku.or.jp/rekihaku/

・国土交通省 鉄道ヒストリー「鉄道主要年表」「日本鉄道史」

https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_fr1_000037.html

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