Interview新宿有識者
インタビュー

世界の都市の魅力は「寛容性」✖️「多様性」✖️「都市固有の資産」を相互に結びつけるエコシステムが鍵<後編>

日本大学教授 臼井哲也さん

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都市と人という観点で研究を進めているThink!! Shinjukuでは、これから多くの有識者にインタビューを行っていきます。

1回目、グローバルマーケティング学者であり、世界の都市を数多く訪れている「日本大学教授 臼井哲也先生」にお話をお伺いしました。

今回は、そのインタビューの後編となります。

いよいよ新宿、新宿西口は、世界の都市の中でもどのように魅力を発揮できるかに迫ります。

前編はこちらをご覧ください。

(インタビューは、312日に実施をいたしました。)

 

 

●新宿は、あらゆる人々を受け入れる「寛容性」と「多様性」が備わった世界的にみても大変魅力的な街

増田 世界の都市と日本の都市の共通点や相違点はいかがお考えですか?

 

臼井 日本の都市では、ハードウェア、インフラのネットワークは、すでに整っている。

加えて、魅力的な自然・歴史的な資産もたくさんあります。

京都が代表的ですが、実は東京にもたくさんありますね。

そして、治安、安全性も極めて優秀です。

ハード面で日本において足りないのは、分かりやすい回遊ネットワークでしょうか。

鉄道にしても街にしてもやや複雑です。

しかし現在では、スマートフォンなどのデバイスの発達によって、どんどん情報の最適化が進んできていますから、そのようなハードルもどんどん下がってくると思います。

世界の都市と比べると日本の都市機能は複雑ですが、ITの力でどうにかできそうな状況になってきましたね。

もっとも大きな課題は、ソフト面にあります。

つまりは、「寛容性」や「多様性」を尊び高めていくようなそういう場作りやエコシステムですね。

これが、他のライバル都市と比べると決定的に日本の都市が遅れている部分だと考えています。

 

 

増田 今の基本項目は、グローバル化が進めば進むほど、どの都市も似たような形になっていくとお考えですか。もしそうなった時に違いを生み出すとするとどの部分が注目でしょうか。

 

臼井 それは、やはり「掛け算」になると思います。

要するに、様々な要素を掛け合わせて個性を出していくようになると思います。

基本的には、機能面ではどの都市も似通ってくると思います。

どこに行っても同じサービス、同じ設備になるでしょう。

GAFAがこれを加速させます。

空港を思い浮かべていただければ分かるかと思いますが、既に空港は世界中で同質化が進んでいますね。

これは、国内国外問わず、状況は同じです。

例えば以前は、札幌と福岡を比較すると、食文化や商習慣など、様々な違いがあり、異国情緒も多少はあったのですが、現在はかなり同質化が進んでいます。

もちろん食そのものはまだ独自性を維持していますが、お店の構えやサービスは同質化が進んでいます。

これは、世界の都市でも同じで、例えば、現在、中国や東南アジアの都市で建設中の地下鉄などの交通インフラはどれに乗っても基本的には同じですね。

ライドシェアも世界中の都市で使えますので、今までのように、空港を降り立った後の探検家のような感覚は薄くなってしまいましたね。

アプリを使えば、難なく目的地まで到着できてしまうわけです。

ちょっとは迷ってみたいですよね(笑)。

無機質ですね。

感動や発見が少ないんですよ。

ただし、このグローバル規模での同質化が、国境を越えて移動しても不自由なく生活できる状態を保障してくれているともいえます。

ですので、この場所にしかない建物、食、歴史的な資産、特徴ある人々の集いといったことが、差異化の要素になると思います。

要するに「掛け算」ですね。

 

 

増田 今の先進国(先ほどの定義)の都市において、1位がロンドン、2位がニューヨーク、3位がパリで、4位が東京といったランキングがされていますが、一概には言えないと思いますが、差異化はできているのでしょうか。

 

臼井 インフラは似通ってきますが、やや抽象的ですが、そこに流れている雰囲気や空気感にははっきりとした違いがありますね。

例えば、パリでは、夕暮れ時の、あのセーヌ川の空気感は、実際にそこに行かないと感じることはできませんね。

それはニューヨークにもない、パリならではの空気感なのです。

セーヌ川の辺りにはノートルダム寺院がありますので、過去と現在のパリの雰囲気が混在し、なんとも形容しがたい独特の雰囲気が醸し出された場に身を置くことができます。

これはライブ配信でも味わえませんね(個人の主観ですが・・)。

複数の要素が掛け合わされているわけですね。

日本でいうと、やはり新宿東口の猥雑とした感じやネオン、いろんなお店が軒を連ねたあの雰囲気は、一種独特の景観ですね。

間口の狭いお店がひしめき合っていて、一つ一つが違っていて、当然いろんな国の料理が楽しめて、しかもそれは狭い雑居ビルの2階、3階、4階、5階、6階、7階へと天まで伸びている。

これは世界に類を見ない独特な風景です。

そもそも窓もないビルの中に入って、狭いエレベーターに乗って上に上がり、漸くたどり着くといった飲食店のスタイルはアジアだけかもしれません。

特に東京ですね。

私の海外の友人がよく言っているのですが、初めてのお店の場合、外からガラス越しに店の雰囲気を確認してから入店するのが普通のようです。

しかし東京では雑居ビルの上にあって全く外から見えない、上に上がってドアを開けて初めて中が少し見えて、しかも奥に入っていって座らないとお店の雰囲気が分からないのは、非常にわかりづらいですし初めての人は不安になりますね。

ある意味でこれは排他的なシステムとして機能しているわけです。

しかし、ITの力によってそのハードルが下がれば、それが独自性へ早変わりするわけですね。

ITの力を借りれば、そのような独特なわかりにくい空間が、一転してそこでしか楽しめない固有の体験へとその価値が変化するわけですね。

それは、ハードウェアと歴史的資産とそこに住んでいる人たちが織りなす掛け合わされた独特の雰囲気です。

これは唯一無二であり、真似はできませんね。

 

 

増田 それでは、働く人と言う観点で、渋谷や新宿のグローバル時代におけるポテンシャルはどのようにお考えですか。

 

臼井 一つのオフィス(場所)に縛られて仕事をしていくと言うスタイルは、これからも基本ではあると思いますが、一方で、柔軟に場所を選んで働くスタイルもこれからどんどん増えていくでしょう。

そうなると、もう渋谷とか新宿とかそういうことが問題ではなくなるかもしれません。

しかし、仮にある場所で仕事をすることによって生産性が高まったり、クリエイティビティが高まったりするのであれば、その場所にオフィスを置きたいという会社やそこで働きたいという個人が出てきても不思議ではありません。

例えば、私が1日にどこで仕事をしてもいいよと言われた場合、渋谷のあのスタバに行って仕事をしようと思うのか、それとも新宿のあのホテルのロビーでやろうと思うのか、仕事場の選択肢は広がります。

つまり、選択肢として渋谷という場所の魅力が十分に伝わっていれば、そこが仕事をする場所として選ばれる、打ち合わせの場所として選ばれるということになるのではないでしょうか。

要するに、働く人が、その場所で働くことで、他では得られない独自の価値を享受できるのであれば、そしてその価値が明示化されていれば、自ずと選ばれる人気の場所になりますね。

仕事場の選択権が、居住地の選択のように個人へ移行する場合、場の価値のわかりやすさが鍵を握るようになるでしょう。

 

 

増田 そうなると、都市や街は、ある程度来て欲しい人を明確にし、その人に対する提供できる価値を明確に打ち出すことによって、誘引することが可能になると言うことですね。

 

臼井 そう言うことになりますね。

ただ、先ほどのお話は、個人レベルでのお話になるので、都市や街は企業を誘致する視点がより重要であると考えます。

いわゆるクリエイティブな企業を誘致するといった視点をまずは優先すべきだと思います。

個人をターゲットにして考えるのは、あまりにも範囲が広いし、効果測定が曖昧になりやすいですね。

だから、ピンポイントにクリエイティブな企業を世界中から誘致するのが効率的であり、効果測定も容易ですね。

渋谷は、そこが上手ですね。

 

 

増田 今のお話は、行政としてはできそうなのですが、小田急などの民間一企業がそのエリアに人材を呼び込むと考えた時に、どのように考えられそうでしょうか。

 

臼井 そうですね。

東急さんには、「渋谷の主」的なイメージはありますよね。

ある意味大きな推進力を持って、渋谷エリアの様々なことを変えられる力があるのではないでしょうか。

渋谷の街にはそういったパワー構造が内在すると想像しますが、新宿は異なりますよね。

プレーヤーが多様です。

小田急さんが新宿西口においてエリア全体を変えていく推進力をある程度持つとしても、渋谷の東急さんと比較すると弱いと言わざるを得ないですね。

そこはまず前提として押さえる必要があると思います。

そもそも街やエリアの魅力を高めるのに、一企業ができることは限られています。

ただ、渋谷の場合は、東急村ではありませんが、Bunkamuraや東急ハンズ、公園通りなど長期に渡って文化の発信地として東急グループが率先して投資をしてきた歴史があります。

明確な目標のもとで何年もかけて積み重ねてきた歴史があります。

私が知る限り、東急が開発を本格化する前の渋谷は、大人の街、おじさんたちが集まる場所だったと聞いています。

それを東急さんは、若者の街へ、若者の最先端の文化発信地に変えていくという考え方の下に、長い時間をかけて投資してきましたよね。

他にもなかなかお金になりにくい美術やアートの分野もスポンサーとして支援してきましたよね。

それはある意味、渋谷という場所の魅力が相対的に低かったから、それを一から作り上げなきゃいけないという危機感から始まっていると思います。

後発者優位が働いたといってもいいかもしれません。

また起業家精神のようなものがあったのではないでしょうか。

もし、新宿を改めて再構築していくということであれば、長期的な視点で取り組まないと、最初から大きく変えるパワーは一民間企業には持てないというのが現実だと思います。

新宿は副都心として早い段階で、東京都が指定をして、西口を再開発しましたよね。

なので、そこが推進力の出発点ですよね。

渋谷のように一企業が街を一から作ろうという場合と出発点が全く異なりますね。

ただ、だからこそ新宿の場合は、さまざまなプレイヤーの存在が強みとなると私は考えています。

歌舞伎町辺りのお店もあるし、行政機能、それから西口のオフィスビル群やホテル群、そして当然小田急もそうですし、南口のJRもそうですよね。

いろんなプレイヤーによる様々な風景や文化が「メガ新宿」に混在している。

そのように複数のプレイヤーが、混じり合って多様でモザイクな場所であることが、新宿独自の価値を創り出しているのではないでしょうか。

そう言う意味では、質問の内容に戻りますが、一企業が新宿はこの方向と言うことを決めないで、メガ新宿の中のエリアごとに、あるいは企業ごとに競って、切磋琢磨して面白いことがどんどん生まれる、巨大なショッピングモールのような雰囲気にしていけば、新宿全体が盛り上がりますよね。

このように、多様な分野の「クリエイティブ・クラス」が集まってくるシナリオが新宿らしい、そう思います。

アーティストもビジネスパーソンも行政パーソンも、そして夜の歓楽街のプロたちも・・。

街丸ごとがダイバーシティなのが新宿の魅力ですよね!

 

 

 

●新宿西口は「愛着」をキーワードに10万人のワーカー、中でも4割いる女性に少しでも長く楽しみながら滞在してもらえる地道な努力を

増田 今のお話からすると、新宿にいる人、日本人においてはよく理解されると思うのですが、世界で見た時にも他には無い価値になりそうでしょうか。

 

臼井 それは、多様なバックグランドを持った方々を受け入れ、みんなで面白いものを作っていこうという状態を作ることができれば、世界においても十分に戦えると思います。

ただ一方で、やはり東京は大都市ですね。

私は兵庫県出身なんですが、初めて東京に出てきた時には街は冷たく感じました(笑)。

やはり都会に住んでいる人は忙しいし、新参者からすれば仮面を被っているように見えてしまう。

ニューヨークやパリなど、世界の大都市に行っても同じ感覚を持ちますね。

やはり大都会というのは、寛容性がある、多様性があるというのだけれども、でもどうしても新参者にとっては冷たく感じるものですよ。

ただ、その中でも新宿は温かさを感じますね。

新宿と上野ですね。

新宿は首都圏の広域より人々が集まってくる場所として長らく発展してきましたので、その歴史の積み重ねが「温かさ」の背景にあるのではないでしょうか。

歴史的に見てもさまざまな人々が集まってくる場所が新宿ですので、突拍子もないチャレンジがしやすいような寛容さのある雰囲気作りがこれからも大切ですね。

これまでにない、何か面白いお店をオープンするのであれば、まずは新宿だよねといった雰囲気作りですね。

 

 

増田 私も新宿はとても温かいと思っています。上京物語では無いですけど、地方から出てきた時に受け入れてくれて、一旗上げる場所としてのイメージがありますね。すごく良い街だなと思っています。

 

臼井 そうですね。

新参者を受け入れてくれる街は、東京では、新宿と上野、そして池袋もそうですかね。

 

 

増田 新宿の可能性に関してお話しいただき、とても可能性に満ち、魅力的な場所であることを改めて理解しました。最後になりますが、新宿西口に焦点を絞るとどのような可能性があるとお考えでしょうか。

 

臼井 先ほど見せていただいた調査資料において、「愛着」というキーワードで調査されていたかと思うのですが、その観点はとても重要で、やはり他のエリアと比較する前に、今このエリアでお仕事なさっている方々をしっかりと見つめ、より長く時間を過ごしていただくための努力を地道にやっていくことを最優先すべきだと考えます。

西口でお仕事をなさっている方々の一日の動きの中で、いかに西口で過ごす時間を魅力的にできるのか、これに尽きると思います。

これには、奇を衒ったマジックも、ショートカットもありません。

例えば、大学生もそうなのですが、大学に入学すると他の大学と比較してどうかということよりも、目の前にいる先生や仲間の学生たちと共に創造するキャンパスライフが大切になりますよね。

マーケティングには「価値共創」と言う概念がありますが、まさにこのエリアで働いている方々と強力なプレイヤーである小田急さん、そして行政とがしっかりと協力をして、このエリアにいらっしゃる方々をいかに楽しませるかに関する仕掛けをいっぱい作って、これをずっと、そういう気持ちで、何年も続けていけば、いつかそれが文化として定着すると思います。

ですので、今でも小田急さんが中央公園やサザンテラスなどでいろんなイベントを主催なさっていますがそういった取り組みはとても重要です。

いい意味で他から学ぶことは大切ですが、比較だけしていても何も生まれません。

他は他、うちはうちなんです。

 

 

増田 調査の結果から、新宿はエリア単体で考えると10万人の働く人が日々通っていて、これは東京の中でも一番多いと言う結果が出ています。

 

臼井 だからこそ、その規模がまさに一つの魅力的なマーケットですので、10万人のマーケットを深く掘っていくということが、とても重要ですよね。

10万人の方々を一人でも多く、1分でも長く、西口で過ごしてもらう、そのために何が必要かを突き詰めることに尽きると思います。

それを続けて、ノウハウを蓄積することが、小田急グループの財産になるのではないでしょうか。

私はそう信じます。

さらに、調査の中で出ていたように、女性の割合が意外に高い。

4割弱。

しかも30代の女性が多い。

そして、グルメや健康に対する興味・関心が高いことも分かっている。

必要なことは、このような西口の方々の抱える悩みや求めているサービス、お店をつぶさに観察したり聞き取りをしたりして、それらを素直に提供していくという地道な努力だと思います。

それをやっていくことによって、西口に対するワーカーの意識が変わってくると思います。

その時に、西口の企業群に加えて、「寛容性」、「多様性」を重んじ、外のクリエイティブ・クラスを呼び込み、積極的な交流を促し、有機的につないでいくことが次のステップですね。

例えば、野球で強力な助っ人外国人を連れてきても、会話もなくバッターボックスに立たせて、バットをふるだけの関係では、チームとしての活性化や相互の学びは期待できないですよね。

ですから、企業を外から誘致してきたときにも、既存の企業やワーカーとお互いに刺激を与えられるような、そういう場作りが必要になりますね。

 

 

 

みなさまいかがでしたでしょうか。

世界の都市と日本の都市の比較。魅力的な都市の要件。新宿の強み。

グローバルな視野からエリアの戦略まで、さまざまな示唆が含まれていたと感じております。

 

Think!!Shinjukuでは、これからも新宿有識者へのヒアリングを通して、新宿、新宿西口の活性化を考えてまいります。

次回のインタビューもご期待ください。

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